ゼオライトとは?
概要
ゼオライトは、ギリシャ語の沸騰する石(沸石)を意味しており、天然ゼオライトとして1756年に発見されました。
ゼオライトは結晶性アルミノ珪酸塩の総称であり、構成元素は、Al、Si、O、カチオン(陽イオン)で、SiO4とAlO4四面体構造※を基本としています。それらが複雑に、且つ規則正しく繋がることで、ゼオライトの特徴である、直径が数Å~十数Åの小さな分子とほぼ同じ大きさの細孔が、1次元、2次元又は3次元に規則的に形成されています。その細孔内にはカチオンが存在しており、これらに基づきゼオライトの各種機能が発現されます。ゼオライトの細孔には、その直径より小さな分子のみが進入でき、大きな分子と篩い分けができることから、ゼオライトはモレキュラーシーブ(分子篩)とも呼ばれています。
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四面体構造:Si4+またはAl3+を中心として形成される4四面体。中心がAl3+の場合、四面体の価数は、Al3+×1個、O2-×2個×1/2(隣接四面体と共有するため1/2)より、(3+)+4×(2-)×1/2=(1-)とマイナスとなる為、カチオンがAlO4-四面体の近傍に存在し、全体として中性となる。従って、Alの個数と1価カチオンの個数が等しくなる。2価カチオンだと、その個数はAlの1/2となる。
化学式
ゼオライトの化学式では、酸化物の形で表されます。
Me2/XO・Al2O3・mSiO2・n H2O
Meはゼオライト細孔に存在するX価のカチオン(陽イオン)で、他のカチオンと交換可能です。mはシリカアルミナ比と呼ばれ、2~∞の値をとります。2の場合には、Alの個数とSiの個数は同一となります。また、5以上のものをハイシリカゼオライトと呼びます。
カチオンを交換することや、シリカアルミナ比を変えることで、目的の機能を得られます。
ゼオライトの種類
ゼオライトは、合成ゼオライト、人工ゼオライト、天然ゼオライトに分類されます。このうち東ソーでは高純度の合成ゼオライトを製造しています。
原料 | 価格 | 純度 | 主な用途 | |
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合成ゼオライト | 化学物質 | △ | ◎ |
工業用(化学・製薬・自動車産業等。脱水剤、各種成分吸着、触媒等) ※用途選定はこちら |
人工ゼオライト | 石炭灰など | ○ | ○ | 水処理、脱臭剤 |
天然ゼオライト | 天然に産出 | ◎ | △ | 土壌改良剤、ペット脱臭、水処理、飼料用 |
結晶構造
現在、ゼオライトの結晶構造は天然ゼオライト、合成ゼオライト合わせて253種類(2021年4月時点)が確認されています。東ソーでは下記の8つの合成ゼオライトをラインナップしており、目的物質に見合った細孔径、カチオンを有する製品を選択いただけます。
合成ゼオライトの形状
合成ゼオライトは合成した段階では粉末形状です。お客様の用途によっては、ハンドリングのし易さから、バインダー(粘土、シリカ、アルミナ)を混ぜて、成形体(ビーズ、ペレット)として提供しています。
特にハイシリカゼオライト(HSZ®シリーズ)は、これまで粉末品での提供が主でしたが、成形技術を活かし、成形体(ペレット品)での提供を拡充していきます。
特徴
シャープな細孔分布
ゼオライトは、シリカとアルミナが規則正しく連結してシャープ(均一)な細孔を形成しています。これにより目的物質を極めて高い精度で吸着・除去・分離、また触媒反応生成物を高選択率で得ることができます。
ゼオライトの細孔径の分布イメージ
イオンコントロールによる吸着・反応選択性の拡大
ゼオライトは結晶構造の中に陽イオン(カリウム、ナトリウム、カルシウム等)を有しています。
東ソーのゼオライトは目的にあわせて陽イオンを交換することで、細孔径の大きさや吸着選択性・反応選択性を任意に変化させることができ、吸着物質の絞込みや、触媒反応の制御が可能です。
ゼオライトの細孔径イメージ(A型ゼオライトの例)
シリカ/アルミナ比のコントロールによる高機能性
ゼオライトはシリカとアルミナの結晶体であり、シリカとアルミナの比率をコントロールすることで、同じ結晶構造でも機能や特性を変化させることができます。
東ソーではお客様のご要望に合わせ、親水性や耐熱性また触媒性能(酸強度、酸量)といった特性を変化させたグレードをご用意しています。
親水性、耐熱性・変化のイメージ
触媒性能(酸強度、酸量)・変化のイメージ
不燃物としての高安全性、高信頼性
ゼオライトは、それ自体が酸化しない扱いやすい不燃物です。このため、様々な可燃性物質との共存下においても、使用することができます。
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ゼオライトが使用されている可燃性物質プロセスの一例
メタン、イソブタン、エタノール、水素など
機能
吸着
ゼオライトには分子レベル(サブナノメートル)の細孔が存在しており、その細孔内に様々な物質を吸着する性質があります。ゼオライトの吸着特性は細孔径の大きさ、結晶骨格のシリカ/アルミナ比(mol/mol)、結晶骨格外のカチオン種によって決まります。
ゼオライトはゼオライト細孔径より小さい分子を吸着することができ、それより大きい分子はゼオライト細孔内に入ることができないため吸着できません。このように、ゼオライトには細孔径の大きさを利用して分子を分離することができる"分子篩"の特性があります。
ゼオライトの吸着特性は結晶骨格のシリカ/アルミナ比によっても変わります。一般的に、シリカ/アルミナ比が低い(Al原子数が多い)ほど、親水性となり水分吸着量が多くなります。逆に、シリカ/アルミナ比が高く(Al原子数が少なく)なるに従い疎水性を示します。
親水性、耐熱性・変化のイメージ
触媒性能(酸強度、酸量)・変化のイメージ
この親水性はガス・有機溶媒中の微量水分除去プロセス、疎水性は空気中に存在する微量のVOC成分の除去プロセスなどに活かされています。
ゼオライトの吸着特性はカチオン種によっても大きく変化します。ゼオライト細孔内に入ることができた分子は、カチオンとの静電相互作用(プラスとマイナスで引き付け合う力)によって吸着しています。一般的には、カチオンの大きさが小さく、価数が大きいカチオンほど静電引力が大きくなる性質があり、極性*1が大きい分子ほど、強く、多く吸着することができます。
吸着した分子は、ゼオライトを減圧・高温条件にすることによって脱着することができます。この性質を活かして、混合物から特定の物質を繰り返して分離、除去することができます。
吸着運転・脱着運転のイメージ
また、吸着する時には吸着熱が発生するため、この性質を利用して、化粧品用温感剤等にも使用されます。
グレード選定方法・ご提案
イオン交換
ゼオライトに存在するカチオンが入れ替わります。例えば、Na含有ゼオライトをCa2+を含む水溶液中に投入すると、ゼオライト中のNa+イオンが水溶液中に放出され、代わって水溶液中のCa2+イオンがゼオライト中に入ります。
この性質を活かして、溶液中のカチオンを特定種に交換、除去することができます。
Si、Al、Oで構成されるゼオライトの結晶骨格は負に帯電していますが、電気的中性を保つために結晶骨格外にカチオンが存在しています。カチオンは任意に交換できる特性(イオン交換特性)があり、吸着特性、酸・塩基性などの発現に重要な役割を果たしています。
ゼオライトのイオン交換容量はAl原子数に依存するため、シリカ/アルミナ比の小さいゼオライトほどイオン交換容量は大きくなります。
ゼオライトのイオン交換特性は、洗剤用ビルダー、農林水産分野、放射性汚染水の浄化、有害重金属イオンの除去などに利用されています。
放射性汚染水の浄化イメージ
触媒作用
ゼオライトは、ユニークな固体触媒作用を有しています。細孔の中に反応物を吸着することで細孔空間に触媒反応場をつくり出すこと、反応物の活性化に有効な触媒金属種を固定化することに優れている材料です。また、均一な分子サイズの細孔、及び電荷補償カチオンの静電場効果によってこれらの機能を制御することができ、ゼオライトの種類や組成を目的の触媒反応に応じて選定する必要があります。
ゼオライトの電荷補償カチオンをプロトン(H+)に変換することによって固体酸触媒機能が発現します。また、多価カチオンでイオン交換したゼオライトも固体酸機能を有します。
放射性汚染水の浄化イメージ
ゼオライトの固体酸は、固体酸強度、固体酸量、及びその積で表されるため、ゼオライトの結晶構造や組成(シリカ/アルミナモル比)に依存します。
石油精製分野のクラッキング触媒は、代表的なゼオライトの固体酸活用例です。FCC(Fluid Catalytic Cracking)プロセスにおいて、ゼオライトは触媒反応効率の改善、触媒量削減に貢献しました。更に、数種類の固体酸ゼオライトを用いることで、より高効率なクラッキング触媒作用を与えることが報告されています。FCC触媒以外にリフォーミング、水素化分解、異性化反応などもゼオライトを固体酸触媒として活用した事例です。
ゼオライトは、任意の金属カチオンをイオン交換担持させることができます。Cuイオンを交換担持させたゼオライトが特異的に窒素酸化物を吸着、活性化し、更には長い期間安定して窒素と酸素に触媒分解できることが1980年代に国内で見出されました(図 NOx浄化触媒モデル)。この発明を契機にゼオライトを用いた窒素酸化物浄化触媒の研究が精力的に行われています。
ゼオライトは、触媒活性、触媒寿命、耐熱性、耐久性、吸着被毒などの触媒要件を満足する触媒開発の材料として注目されており、各種発生源で窒素酸化物を高度浄化できる数少ない材料の一つです。
NOx浄化触媒モデル
用途
化学分野
化学を知る東ソーだからこそ、化学の幅広い分野へご提案できます。
- 化学プラントにおける各種溶媒(ヘキサン、トルエン、ベンゼン等)の脱水、不純物除去【ゼオラム®】
- フロン製造時の脱水、不純物除去【ゼオラム®】
- ナフサ分解ガスの脱水および不純物(NH3、Hg等)除去【ゼオラム®】
- 低露点エアドライヤー(大気成分の脱水)【ゼオラム®】
- 石油精製触媒(FCC、水素化分解、脱ろう、異性化等)【HSZ®】
- 石油化学触媒(キシレン、エチルベンゼン、クメン、BTX等)【HSZ®】
- ファインケミカルズ合成触媒【HSZ®】
ガス分野
ゼオライトは、ピュアなガスの精製に役立っています。
- 酸素PSA装置における大気中のN2吸着【ゼオラム®】
- 水素PSA装置におけるH2中のCO、CO2、N2、CH4等吸着【ゼオラム®】
- 二酸化炭素PSA装置におけるCO2吸着【ゼオラム®】
- 深冷分離装置における前処理剤として大気中のCO2吸着【ゼオラム®】
- エアゾール用に使用されるLPG中の硫黄分、H2O吸着【ゼオラム®】
- 各種高純度ガス精製【ゼオラム®、HSZ®】
環境分野
ゼオライトの吸着選択性が環境改善に役立っています。
- 半導体製造過程で発生する排出規制物質・ガスの除害【ゼオラム®:F-9等、HSZ®】
- 印刷、塗装工場等から排出されるVOC(揮発性有機化合物)の吸着・濃縮【HSZ®】
- 各種放射性物質(Cs、Sr等)の吸着(イオン交換)【ゼオラム®、HSZ®】
- 生活環境、作業環境における消臭、脱臭【ゼオラム®、HSZ®】
生活分野
ゼオライトは快適な生活空間作りに貢献しています。
- 複層(二重)ガラスでの曇り止め防止のための脱水【ゼオラム®】
- ウレタン系シーリング材、塗料、接着剤の発泡防止のための脱水【ゼオラム®】
- 変電所等で使用されるガス絶縁開閉装置に使用されるSF6ガスの脱水、SF6分解ガス吸着【ゼオラム®】
- 燃料電池用の脱硫剤【HSZ®】
- 冷蔵庫等に使用される真空断熱材中の不純物除去【ゼオラム®、HSZ®】
- 除湿機での脱水【HSZ®】
- 医薬品や精密機器における乾燥剤【ゼオラム®】
- 水分を吸着する際に発生する吸着熱を利用した温感剤【ゼオラム®】
- 冷蔵庫、冷凍機、ルームエアコンの冷媒および冷凍機油の脱水、精製【ゼオラム®】
自動車分野
ゼオライトは、自動車社会を支える縁の下の力持ちです。
- 自動車排ガス中の炭化水素吸着【HSZ®】
- 自動車排ガス中の窒素酸化物分解触媒【HSZ®】
- カーエアコン用冷媒として用いられているフロンの吸脱水【ゼオラム®】
- ブレーキパッドのフィラーとして、ブレーキ性能の信頼性向上【ゼオラム®】
評価方法
吸着、イオン交換用途にてゼオライトが使用可能かを判断する場合の一般的なフローは下記のとおりです。
静的な状態で吸着(イオン交換)できるか確認(静的試験)*1
↓
お客様の使用条件にて吸着(イオン交換)できるか確認(動的試験)
↓
スケールアップの検討
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汎用的な物質につきましては、弊社でもデータを持合せている項目もございます( 吸着データ )。お気軽にお問合せください。
以下に、お客様にてご評価頂く場合の一般的な方法を紹介します。
- 前処理
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ゼオラム®シリーズは製造時に焼成処理を行っておりますので、基本的には前処理を実施して頂く必要はございません。古いサンプルをお持ちの場合は前処理を実施される事を推奨いたします。
HSZ®シリーズは出荷時に水分を含んでおりますので、前処理を実施される事を推奨いたします。一般的な前処理条件は下記のとおりです。
・不活性ガス(例えば窒素、露点がなるべく低いものを使用)の雰囲気下にて、300~400℃で1~2時間保持。
・昇温速度の目安は5~10℃/min。-
イオン交換の場合は吸着熱の発生を抑えるため、バットなどにゼオライトを広げて一晩放置し、空気中の水分を吸湿させることを推奨いたします。
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- 静的吸着量の測定
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(1)気相の場合
吸着による重量増加を測定する重量法、吸着した気体の容積を測定する定容量法等があります。1)重量法
吸着による重量の増加を直接はかりで測定して吸着量を求める方法で重量の測定には、石英スプリングや精密な電子天秤が用いられます。
これらの秤に測定したい吸着剤をセットして、吸着させたい物質を吸着試験装置に導入して、吸着剤に吸着させ、重量の増加から吸着量を算出します。重量法吸着装置
2)定容量法
吸着試験装置の内部の体積を事前に測定してから吸着量の測定を行います。吸着量の測定は、導入した気体の量から吸着平衡後の気体の量を差引き求めます。気体の量は気体の状態方程式から算出します。(2)液相の場合
吸着剤を所定濃度の溶液中に浸漬させ、振とう機で溶液を攪拌して定期的に溶液の濃度を測定します。濃度変化が無くなったところを平衡と判断し、吸着前後の液濃度変化から吸着量を算出します。 - 動的吸着量の測定
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(1)気相の場合
吸着させたいガスを吸着しないキャリヤーガスに混ぜて吸着剤が充填されている吸着塔に流した状態で出口ガス組成を測定し、入口濃度と一致したところを吸着平衡とします。
この出口濃度変化から破過曲線を作成して、吸着量を求めます。(2)液相の場合
吸着剤が充填されている吸着塔に被吸着質を含有する溶液を定量ポンプを用いて送液した状態で出口の濃度変化を測定し、入口濃度と一致したところを吸着平衡とします。
この出口濃度変化から破過曲線を作成して、吸着量を求めます。気相動的吸着試験装置
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イオン交換の場合は静的、動的吸着試験のいずれの場合も上記の液相の場合をご参照下さい。
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吸着データ(吸着等温線)
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H2O
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CO2
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N2
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O2
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CO
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ベンゼン
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トルエン
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キシレン
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エタノール
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イソプロパノール
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参考資料
タイトル | 著者 | 記載先 |
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