奨学生の声 2023年度

「私が学生時代に打ち込んだこと」

東京大学 薬学部
匿名

私は、修士課程の2年間を過ごすにあたり、東ソー奨学会から奨学金の援助をいただきました。この援助のおかげで私は、大学院生活を通して大きく成長することができました。本作文では、私がこの2年間でどのように成長することができたか、記させていただけたらと思います。

元々私は、病気になりやすい人となりにくい人がいることに疑間を持っており、病気になった際に体の中でどのような現象が起きるのか、について興味がありました。免疫系が正しく働くことは、健康な生活を送る上で不可欠であり、その破綻がもたらす病気は日々に大きな支障をもたらします。私は人々が健康に暮らすために必要な免疫系がどのように成り立っているか知りたいと考えていました。そして、免疫系を正確に維持するメカニズムを明らかにすることで、免疫が関わる病気で苦しむ患者さんの病気を治すことができるのではないかと考え、大学院で免疫細胞についての研究を行うことに決めました。

とはいうものの、最初は研究どころか、失敗の連続でした。自分の実験手技の不的確さによることや、実験デザインの甘さによることなど、様々な原因がありましたが、免疫についての研究をしている、と言えるほどのことは何もできていませんでした。一方で、分子生物学実験の実験手技について徹底して学び、実験量をこなすことで、徐々に実験した際に結果を出せるようになり、研究を遂行していけるようになりました。

私は自身の研究において、免疫抑制機能に重要な免疫網胞が、その免疫抑制機能をどのように担うか明らかにしたいと考えていました。私のテーマでは、二つのタンパク質が免疫抑制的に働くメカニズムの解明にあたっており、特に別のタンパク質の寄与の可能性を考え、検証していました。さしあたって、新たなタンパクが欠損した状況を作り出し実験を計画しましたが、実際に最適な実験条件を見つけるまで検討実験の連続でした。そうした中で、諦めずに実験をし続けることの大切さを身に沁みて感じていきました。そして、新たなタンパク質の必要性を示すことに成功し、続いてそのタンパク質が、元々の二つのタンパク質の働きにどのように寄与するのか調べることにしました。その際にも先行研究を参考にしていたにも関わらず、判断基準からそもそも隔離しているようなデータが出てきてしまうこともよくありました。その度に、改善方法を考え、再度実験を計画し遂行する流れを繰り返した結果、失敗をしても落ち込まずに次を考える習慣を体に染み付かせることができました。このように大学院において、非常に多くの時間をかけて失敗し改善し続けてきた時間があったからこそ、自分には勉強やスポーツに対してだけでなく、もっと広い範囲で粘り強く努力し続ける強みがあることに気づくことができました。

また研究を進める中で私は、問題点が何か、と明らかにすることを、指導教授からずっと指導していただきました。そのおかげで今私は物事を、順序立てて考えることができるようになりました。加えて最初の頃は、研究室内の先輩の発表を聞いても、分からないことで溢れていましたが、研究の進め方を把握していくにつれて、頭の中で他の人の研究について順序立てて整理し、質問していくことができるようになりました。自分の発表については、1回30分の研究発表と45分間の質疑応答を3ヶ月に一度のサイクルで続けるのは極めて大変ではありましたが、厳しい分研究や発表自体の精度が上がっていきました。問題が何かと明確にし続ける訓練を積んだ結果、自分の最初の研究発表と、修論発表を終えた今では、発表の仕方に大きく変化が生まれています。その中でも一番大きな変化は、聞く人が話の流れを理解できるか考えて、発表をするようになったことです。自分が最も分かりやすいと思うスライドを最初から準備するより、むしろ自分が最も伝えたいことが何なのかを明確にして、それが自然に伝わるようにすることを意識するようになりました。こうした考え方の変化や、情報を整理して、順序立てる考え方が身についたことも、私がこの2年間を通して得た、大きな財産です。

また過ごしてきた日々を通して、自分の周りの人が過ごしやすくなるような環境を自分から作る、という意識を持って生活するようになったことが、私の大学、および大学院生活を通して得た一つの成長でした。これまで所属していたサークル活動を通して、自分が想像しうる最善の行動を取り、周囲の人が過ごしやすくするために工夫するようになった私は、特に同期や後輩といる時に、自ら話題を見つけ、話しかけるように努めてきました。魅力的だと思う先輩を振り返り、また自分の描く理想と照らし合わせると、自ら話しかけることが、より良い関係性を築くために重要だと感じたためです。そして、自ら動き始めることが、仕事をより早く、より前に進めるために必要だと感じたためです。こうした意識を持ったことで、研究室内で仕事を一緒にする人たちとも、楽しみながら仕事を進められるようになりました。こうしたように、周囲の人が過ごしやすく、かつ自分も楽しめるように仕事をする術を身につけられたことは、私の人生において大きな成長だったと思います。

このように私が、研究生活を主軸とした非常に充実した大学院生活を過ごすことができたことは、本奨学金による日々の生活の支えがあつたからです。アルバイトに時間を費やす必要や金銭的な悩みを抱えることなく、自分が持つ最大限の時間を、失敗を積み重ねて結果を出す営みに費やし、新たな思考方法を培うことができました。そしてその中で自分の強みを知ることができ、またこのような貴重な経験を積むことができたことは私の人生においても大きな強みになりました。この場をお借りして、私を奨学生として採用してくださったことに心より御礼申し上げます。

「学生時代の思い出(国際交流の2年間)」

匿名

私は、外部の大学院に進学をしました。理由は二つあります。

一つ目は、有機化学と生物を掛け合わせたペプチド医薬品の最先端の研究をしたかったから。二つ目は、化学と同じくらい好きである英語をもっと身近に感じたかったから。この目的を果たすために経済的な不安を取り除きたいと思い、修士課程への進学時に東ソー奨学金に応募し、採用されました。東ソー奨学金により、2年間の修士課程において研究と国際交流に没頭することができました。今回は二つ目の国際交流について述べたいと思います。

私が配属している研究室では、45%が留学生です。学科でも半分を留学生が占めているため、日々の連絡事項からゼミ、授業まで英語を使っています。TOEICやTOEFLで自信がある点数を取って入学したため、何とかなるだろうと思っていましたが、入学から半年経ってようやく着いていけるようになりました。しかし、2年間経過した今でも、スピーキングについては壁にぶつかっています。周りは優秀な同期や先輩ばかりで劣等感を感じることもありました。最も大変だったのは、修士論文の要旨と発表スライドを英語で書くことでした。先生に何回も指摘を受け、途中で挫けそうになりました。

2年間で好きで得意だった英語に対して学んだことがいくつかあります。

一つ目は、今までのスピーキングの勉強が大いに欠けていたことです。リスニング、リーディングに力を入れてテストもうまく行っていましたが、実際にはスピーキングが最も使われると思いました。スピーキング力を向上させるべく、YouTubeなどで簡単な洋画を見て言い回しや、単語を少しずつ覚えました。

二つ目は、間違ってもいいから話してみる姿勢が大事だと言うことです。研究室では、サッカー大会やスノボなど留学生が沢山参加するイベントが多くありました。運動が好きだった私は頻繁に参加し、留学生と話す機会が多くなりました。初めは、自信がなく、躊躇っていましたが、単語を発言するだけでも、相手はしっかり聞いて解釈して答えてくれました。それがとても嬉しくて普段の研究生活でも積極的に挨拶をするようになりました。今でもボルダリングやバドミントンを一緒にしたり、旅行の際に通訳とかをお願いされたりします。

おかげで、道端で急に英語で話しかけられても驚くことなく対応することができるようになり、自信に繋がっています。論文や研究発表では英語でまだまだ学ぶ点は多いですが、社会人になっても英会話などを続けていきたいと思います。

また、今年1年間はアジア生を対象とした小さな自治寮に住みました。ここでも国際交流をすることができました。住んだ理由としては、大学からの近さが一番でしたが、2週間に一度の寮会議や食事会を通して、私が日本人である自覚が芽生え、様々な価値観や文化に触れました。

まず、言語について。「お冷」と「水」って違うの?と聞かれて、説明に時間がかかりました。今まで考えたこともない事を説明する機会が多く、日本語の複雑さを痛感しました。韓国人の寮生が韓国語講座を開き、ハングル語を今勉強しています。そして、今日本でよく耳にする中国語も少しずつ教わっています。言語を一から学ぶ楽しさが英語に初めて触れた時の感じと同じで、とても楽しいです。

そして、宗教について。普段当たり前に食べている豚肉がイスラムの関係で食事会には出てきません。代わりにラム肉をよく食べるようになりました。クリスマス会では、仏教の人に配慮をするべきか否か、議論を重ねることもありました。無宗教である私は、「信仰をする」と言う感覚がよく分からず、調べるきっかけになりました。

最後に文化について。談話室で夜通し語り合うこともあり、「この日本の文化、海外ではあり得ないよ」とか、「資本主義と共産主義の違い」など驚くことが多かったです。見たことない料理を振る舞ってくれることもあり、一人だったら絶対に挑戦しない食べ物も食べることができました。

学生最後の2年間はこれからの長い人生にとって短い期間でしたが、私自身とても大きく前進したと感じています。「国際交流」を通して内向的だった性格もどんどん話してみよう!と外交的になり、色々な場面での自信にもつながっています。これからも様々な国の人と話し機会を模索していきたいです。

私がこのような素敵な体験をし、成長することができたのは、2年間手厚い援助をしてくださった東ソー奨学会のおかげです。採用してくださったことに深くお礼申し上げます。