基本的な考え方
東ソーグループは、企業理念の実現のためには、事業活動においてバリューチェーンを含む人権尊重が不可欠であると考えています。CSR重要課題にも人権の尊重を掲げ、取り組みを推進しています。
2011年6月に国連人権理事会で採択された「ビジネスと人権に関する指導原則」で定められている企業による人権尊重への対応の全体像に則り、CSR委員会および取締役会での承認を経て、2023年4月に「東ソーグループ人権方針」を策定・公表しました。今後は、「人権デュー・ディリジェンス」への対応に着手していきます。なお、人権尊重への対応は、外部専門家(西村あさひ法律事務所)の助言・支援を得ながら、指導原則に則った取り組みを継続しています。
東ソーグループ人権方針
東ソーグループは、「化学の革新を通して、幸せを実現し、社会に貢献する」ことを企業理念に掲げ、企業グループの持続可能な発展を目指しています。企業理念の実現には、事業活動が影響を及ぼし得る人々の人権の尊重が必要不可欠であると考えており、2011年6月に国連人権理事会で採択された「ビジネスと人権に関する指導原則」に基づき、「東ソーグループ人権方針」(以下「本方針」)を以下のとおり定めます。
- 1. 基本的な考え方
- 人権の尊重は、東ソーグループが事業活動を行っていくうえで基本となる事項であり、東ソーグループは、国際的に認められたすべての人権を尊重します。
東ソーグループは、「国際人権章典」(「世界人権宣言」、「市民的及び政治的権利に関する国際規約」および「経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約」)ならびに労働における基本的権利を規定した国際労働機関(ILO)の「労働における基本的原則及び権利に関するILO宣言」に挙げられたILO中核条約上の基本権を最低限のものとして理解し、また、OECD「多国籍企業行動指針」およびILO「多国籍企業宣言」を支持し尊重します。さらに、国連グローバル・コンパクト署名企業として、国連グローバル・コンパクト10原則を支持し尊重します。
本方針は、上記に掲げた東ソーグループの「企業理念」、「東ソーグループCSR基本方針」および「東ソーグループ行動指針」とともに、東ソーグループのすべての活動の基盤となります。東ソーグループは、人権尊重に対する取り組みを進め、社内規程なども本方針に従って解釈・運用されます。
本方針の実行過程においては、社外の人権専門家の知見を活用し、関連するステークホルダーとの協議を誠実に行います。 - 2. 適用範囲
- 本方針は、東ソーグループの役員および従業員に適用します。
また、バリューチェーン上のビジネスパートナーやその他の関係者を通じた人権への負の影響が東ソーグループの事業、製品またはサービスに直接結びつく場合、これらのビジネスパートナーなどに対しても、本方針に沿った行動と人権の尊重に期待し、継続的な働きかけを行っていきます。 - 3. 人権の尊重
- 東ソーグループは、すべての人の尊厳、権利および多様性を尊重し、あらゆる差別、強制労働、児童労働、ハラスメントなどを禁止し、また間接的にも人権侵害に加担することがないように努めるほか、人権が充足される社会の実現を目指した活動にも従事または参画します。
また、国際的に認められた人権と各国の国内法との間に矛盾がある場合には、国際的に認められた人権を最大限尊重するための方法を追求します。
現在、東ソーグループが事業活動を行ううえで、優先的に取り組むべき人権尊重に関わる具体的な課題は、別紙のとおりです。東ソーグループは、社会情勢や事業活動の展開、東ソーグループに対する要請などを勘案しながら、優先的に取り組むべき人権尊重に関わる具体的な課題について、適時適切に見直しを行います。 - 4. 人権デュー・ディリジェンス
- 国連人権理事会「ビジネスと人権に関する指導原則」に則した継続的な人権デュー・ディリジェンスの重要性を認識し、東ソーグループの事業活動がステークホルダーに与えるまたは直接結びつく人権への負の影響を特定し、その防止および軽減を図るよう努め、それらの効果の検証を継続的に実施します。
- 5. 是正・救済
- 東ソーグループの企業活動およびバリューチェーン上の事業活動が、人権に対し負の影響を引き起こし、もしくは負の影響を助長したことが明らかであり、またはこれらの事象が疑われる場合には、対話と適切な手続きを通じて、その是正に取り組みます。また、バリューチェーン上のビジネスパートナーやその他の関係者を通じて東ソーグループの事業、製品またはサービスが人権への負の影響に直接結び付いている場合は、当該ビジネスパートナーなどに対して是正の働きかけを行っていきます。
加えて、国際基準に沿った救済メカニズムの整備も進め、人権に対する負の影響を受けた人の救済のために適切な措置を講じます。 - 6. 教育・研修
- 本方針が東ソーグループの企業活動に組み込まれ、効果的に実行されるよう、役員および従業員に対して、適切な教育・研修を行うとともに、ビジネスパートナーやその他の関係者への理解の浸透に努めます。
- 7. 情報公開
- 本方針の遵守状況を継続的にモニタリングし、説明責任を果たすため、人権尊重に関わる前掲の各項目に対する取り組みを当社ホームページ、統合報告書などにより開示し、ステークホルダーが東ソーグループの取り組みを理解できるよう適切な情報提供に努めます。
- 8. ステークホルダーとの対話・協議
- 東ソーグループは、社外の人権専門家の知見を活用しつつ、労働組合などの関連するステークホルダーとの対話の機会を確保し、本方針の実行に関して誠実に協議を行います。
本方針は、当社の取締役会において、承認されています。
東ソーグループが取り組むべき人権尊重に関わる具体的な課題
- 原材料のサプライチェーン上の人権への負の影響の把握および対応
- -特に強制労働、児童労働、先住民族の権利の侵害などを許容せず、人権侵害を伴う紛争鉱物を使用しないよう取り組みます。
- 東ソーグループ内における、国際的に禁止されている差別およびハラスメントの内容やその保護のために整備が求められる体制および手続き(グリーバンスメカニズムなど)を踏まえた取り組みの強化
- -出生、性別、国籍、人種、民族、信条、年齢、性的指向、性自認、障がい、社会的出自、エイズなどの疾病などを理由とするいかなる差別も許容しません。
- -パワーハラスメント、セクシャルハラスメント、マタニティーハラスメント、レイシャルハラスメント、障がいを理由としたハラスメントなどいかなるハラスメントも許容しません。
- 国内外での建設工事および輸送の過程における労働者(脆弱な立場に属する外国人などを含む)の人権への負の影響の把握および対応
- -特に強制労働、児童労働を許容せず、適切な労働安全衛生の確保に向けて働きかけます。
- 原材料のサプライチェーンおよび東ソーグループ製品の生産過程において地域住民が受け得る環境上の負の影響の把握および防止
- -安全でクリーンで健康的で持続可能な環境への権利を尊重します。
- 製品の安全管理・安全保障輸出管理に関する対応など、人権侵害リスクへの継続的な対処
- -製品が適切に利用される場合において利用者の安全を確保します。また、製品が輸出される場合、外国為替及び外国貿易法、米国輸出管理規制、その他の適用ある安全保障輸出管理関係法令を遵守します。
人権デュー・ディリジェンス
企業による人権尊重への対応の全体像において「人権方針の策定」の次に定められている「人権デュー・ディリジェンス」に着手していきます。
取り組むべき分野の選定
人権デュー・ディリジェンスのステップ1「リスクの特定・評価」を実施するにあたり、優先的に取り組むべき人権リスクの検討を目的として、デスクトップ調査を実施しました。国際機関や市民社会組織などの専門的な情報や、実際のリスクの発現事例を調査したうえで、産業別のリスク・製品およびサービス別のリスク・地理的リスクなどを考慮し、東ソーの事業およびそのバリューチェーン上で生じ得る人権への負の影響に関するリスクを、概括的・包括的に整理しました。
次に、整理された各リスクの深刻度(規模・範囲・是正可能性)と発生可能性を想定し、リスクマッピングを実施しました。
そのなかから、原材料調達に関するリスク、製造委託先におけるリスク、およびプラント建設・保守などに関するリスクを優先的に取り組む分野として選定しました。
今後の取り組み
人権尊重の観点を浸透させながら、各現場における具体的なリスクの特定調査を実施していきます。
なお、原材料調達に関するリスク対応はサプライチェーンマネジメントとして、人権リスクの把握、リスクの低減に向け、取引先との対話を継続していきます。
人権尊重に向けた取り組み
強制労働、児童労働の禁止
東ソーでは、強制労働防止のために従業員と雇用契約書を締結し、会社と従業員間での労働条件の合意を行ったうえで雇入れをしています。また、児童労働防止のため、雇い入れ時に公的な身分証明書類による年齢確認で18歳未満ではないことをチェックしています。なお、身分証明書はコピーを会社に提出してもらい、原本は本人が保管することとしています。
差別やハラスメントの禁止
東ソーでは、採用活動において公正で差別のない採用選考を行っています。面接を含む採用選考の過程では、出生、国籍、人種、民族、信条、宗教、性的指向、性自認、趣味など、応募者の適性や能力に関連のない事項を採用の判断とすることがないよう徹底しています。また、昇進・報酬・研修受講などについては職分遂行能力別に決められており、同一の職分遂行能力内での機会や処遇は公平であることとしています。
職場においては、差別・ハラスメントを防止するために従業員への教育を実施するとともに、その行為により他の従業員の就業環境を害したときの懲戒を従業員就業規則に明記し、厳正に対処することを明確化しています。差別・ハラスメントが確認された場合は労働協約に基づき、東ソーと東ソー労働組合それぞれから構成されるハラスメント対策委員会を設置し、秘密保持を徹底したうえで、事実関係の確認・調査を実施しています。
結社の自由と団体交渉権の尊重
東ソーでは、結社の自由と団体交渉の権利を、企業として尊重すべき基本的人権と考えています。東ソーと東ソー労働組合は、労働組合法および労働基準法の精神に基づいて労働協約を締結しています。東ソー労働組合を団体交渉の相手と認め、団体交渉は会社と組合が互いに尊重し合い、誠意をもって妥結に努力するものとしています。東ソーではユニオンショップ制を採用しており、労働組合への加入が認められているすべての従業員が組合員として東ソー労働組合に加入しています。
労働時間の管理
東ソーでは、労働基準法および労使間で締結している労働協約を遵守し、労働時間や休憩時間、時間外労働、休日・休暇などを従業員就業規則に定め、適正な労働時間管理をしています。
東ソーではフレックスタイム制度を導入しており、実労働時間が所定労働時間(7時間35分)を超えた場合には、早出残業手当を支給しています。加えて、朝勤務時間帯(5:00~工場7:30、都市8:00)に勤務を開始した場合には、30分につきさらに朝勤務手当を支給しています。また、休日や休養日に勤務した場合の代休制度も設けています。労働時間は、労働時間管理システムを活用して、パソコンのログオン・ログオフ時刻の実態と従業員の勤務申請との乖離を把握し、個人の労働時間管理の適正化に努めています。
年次有給休暇(年休)は最大で20日を付与しています。半日単位で従業員が自由に取得することができ、取得しやすい環境づくりにも積極的に取り組んでいます。
労働時間や年休などは労使による実績を確認のうえ、長時間労働の抑制や過重労働による健康障害防止、年休取得率の向上を推進しています。
賃金の管理
会社の社会的責任が、雇用の維持と賃金の継続的かつ安定的支給であるという考えのもと、東ソーグループでは、賃金の決定にあたり各国・地域の最低賃金などの関連法令を遵守しています。
東ソーでは、労働協約に基づき、適切な賃金、通勤手当などの諸手当、賞与、退職金などを従業員就業規則に定めています。賃金は、すべての従業員およびその家族の幸せにつながるための基本的なニーズを満たす生活賃金に配慮しながら、毎月決められた日に支給しています。なお、給与体系は、職分遂行能力別に決められており、男女で同一の体系を適用しています。給与や賞与などの給与明細は、電子データによって通知を行い、従業員がいつでも確認できるようにしています。
個人情報の保護
東ソーでは個人情報の保護に関する法律に基づいて「個人情報取扱規程」を策定し、会社における個人情報の取り扱いとその保護のために必要な体制を定め、個人情報の適正な管理と保護を行っています。
また、EU一般データ保護規則(GDPR※)に対応したグローバルな個人データ保護体制を整備し、適切に管理しています。
- General Data Protection Regulation
バイオサイエンス事業部における治験者の権利の保護
バイオサイエンス事業部では、医療機器および体外診断用医薬品の製造販売と、それに関わるさまざまなサービスを提供する企業として、倫理委員会を設置しています。本委員会は、臨床研究内容の妥当性を審査することにより、国の「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」に従い、研究が人間の尊厳および人権を尊重して適正かつ円滑に推進することを責務としています。治験者の権利保護として、適切にインフォームドコンセント(自由意志による同意の確認)を取得し、個人情報の保護に配慮することを遵守しています。関係部門に対しては教育を行い、臨床研究に携わるうえで必要な知識を向上する取り組みを行っています。
内部監査
内部監査専門部署である監査室は、東ソーおよび国内外グループ各社の人権全般に関する取り組み(強制労働・児童労働・差別・ハラスメントの防止、労働時間・賃金の管理など)の改善・強化に向け、推進体制や運用状況などの監査・評価を行っています。その結果、現状で人権侵害に対する著しいリスクは見られませんでした。
なお、監査結果は社長や監査役に適宜報告しています。
サプライチェーンにおける人権配慮
東ソーは、社会課題である人権問題を解決し、持続的な調達を実現するためには、サプライチェーン全体で人権に配慮していくことが重要であると考えています。「CSR調達ガイドライン」において、強制労働・児童労働・差別の禁止、ハラスメントなどの非人道的な扱いの禁止、最低賃金・法定労働時間の遵守、従業員の団結権の尊重、紛争鉱物への取り扱い、労働安全衛生の確保などの人権尊重を明記し、取引先にも取り組みの協力をお願いしています。取引先の人権への取り組み状況は、CSR調査票より確認し、その評価結果を各社にフィードバックしています。なお、現状で人権侵害に対する著しいリスクがある取引先はありませんでした。今後リスクが発見された場合は、取引先に対し改善の要請をしていきます。
ハラスメント相談への対応
東ソーは、公益通報者保護法の改正に伴い、2022年6月にハラスメント相談窓口をコンプライアンス相談窓口に統合し、人権やハラスメント問題を含むコンプライアンス全般の相談窓口を一本化しました。
さらに、ハラスメントに関してはハラスメント傾聴員を配置しています。ハラスメントに関する相談は、本人の思いもさまざまで、さらに置かれた状況もさまざまな程度・形態のものになります。ハラスメント傾聴員は、調査などにつながる正式な相談窓口にアクセスする前にしっかりと話を聴き、本人の思いを受けとめ、心理的負荷の軽減につなげることを役割としています。
人権・ハラスメント教育
東ソーでは、新入社員研修や各階層別研修にて、人権教育を実施しています。「東ソーグループ人権方針」の周知を含め、グローバルな人権の考え方、国際的な基準、ビジネスと人権、グローバルな人権問題(強制労働などの現代奴隷、児童労働、差別など)の理解を深めています。さらに、国内グループ会社への教育として、CSR担当者を集めて行われるグループCSR推進連絡会においても、ビジネスにおける人権尊重の理解促進に努めています。
また、職場におけるさまざまなハラスメント(セクシュアルハラスメント、パワーハラスメント、妊娠・出産・育休等に関するハラスメントなど)についても、新入社員研修や幹部職研修などの階層別研修で教育を実施しています。ハラスメントに関する正しい知識を身に付け、ハラスメント行為を未然に防ぐ職場環境づくりを進めています。
2023年度人権・ハラスメント研修の実績(東ソーおよび国内グループ会社)
研修名 | 対象 | 研修時間(時間) | 受講者(人) |
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新入社員研修 | 新入社員 | 1.0 | 99人 (男性:75人、女性:24人) |
中堅キャリア研修 | 入社7年目相当 | 1.0 | 70人 (男性:61人、女性: 9人) |
幹部職研修 | 新任幹部職昇格者 | 1.0 | 65人 (男性:64人、女性: 1人) |
グループCSR推進連絡会 | 国内グループCSR担当者 | 0.5 | 69人 |
パワハラ行動改善研修(EQ研修) | 東ソー本体管理職 | 3.5 | 250人 |