プリンテッドエレクトロニクスへの挑戦
ファンクショナルポリマー研究所では、長年培ってきた分子設計・合成・重合などのコア技術を駆使し、塗って、乾かすだけで半導体膜や絶縁膜を形成できる「プリンテッドエレクトロニクス材料」の開発に取り組んでいます。
プリンテッドエレクトロニクス材料は、印刷技術を用いることで従来より低温・簡便なプロセスで電子回路、ディスプレイ、センサなどをガラスやプラスチック製の基板上に形成できるため、次世代ディスプレイとして注目されるフレキシブルディスプレイなどの“柔らかいデバイス”を実現する電子材料です。東ソーは、このようなプリンテッドエレクトロニクスへ挑戦することで、次世代エレクトロニクスデバイスの創出と製造プロセスの簡便化による低炭素社会への貢献を目指しています。
製造プロセスの比較
従来のエレクトロニクス
プリンテッドエレクトロニクス
▼メリット
- 工程数が半減
- 材料ロスが小さい
- プロセスが簡単かつ省エネ
印刷可能な有機半導体の開発
テレビ、パソコン、スマートフォンなど、現代社会に不可欠な電子機器。これらに用いられる半導体はシリコンを中心とする無機半導体ですが、硬質で割れやすく、プロセス温度が高いため、フレキシブルディスプレイやウェアラブルセンサ など柔軟な製品への応用は困難でした。
一方、プリンテッドエレクトロニクス材料として注目される有機半導体は有機化合物から成り、軽量、柔軟性、耐衝撃性に優れます。溶剤に溶かして「インク」とし、基材に「印刷」することも可能なため、簡便なプロセスで軽量かつ柔軟性に富むデバイスを作製できます。当社は有機半導体の他にも、塗布型の絶縁材料(バンク、絶縁膜、保護膜など)を開発しており、これらをインクジェット印刷で微細に塗り分けて作製した有機トランジスタ※1は、既存のアモルファス※2シリコントランジスタを超える高い性能を発揮することを確認しました。
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電流をオン/オフする素子
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結晶構造を持たない物質の状態
フレキシブルディスプレイの駆動に成功
近年、モバイル用途を中心に、折りたたみ式や曲面のディスプレイが新たなトレンドとなりつつあります。これらの次世代ディスプレイを構成するキーマテリアルとして期待されているのが、まさにプリンテッドエレクトロニクス材料です。
当社は共同研究先である山形大学 有機エレクトロニクスイノベーションセンターと連携し、当社の有機半導体を用いた有機トランジスタを数十万個レベルで集積してディスプレイの画素回路を形成。そして有機ELと組み合わせることで、世界初※のフレキシブルディスプレイの試作・駆動に成功しました。
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印刷・塗布技術を用いた有機トランジスタ駆動による有機ELディスプレイとして
当社有機半導体を用いて試作したフレキシブルディスプレイ
山形大学 有機エレクトロニクスイノベーションセンター 水上 誠准教授らとの共同開発
ウェアラブルセンサへの展開
IoT(モノのインターネット)の急速な普及に伴い、ウェアラブル/ヘルスケア分野では“身に着けられる”生体センサの需要が高まり、プリンテッドエレクトロニクス技術の導入が進むと予測されます。近年では、汗から生理学的な情報をリアルタイムで取得することを目的としたウェアラブル汗センサが報告されており、スポーツ、ヘルスケア、医療分野での応用で関心を集めています。
このような背景から、当社では汗中に含まれるイオンを検出するためのシステムをプリンテッドエレクトロニクス技術に基づいて構築し、フィルム型のイオンセンサと微小なセンサ信号を増幅するための増幅回路の開発に取り組んでいます。これらを小型無線通信モジュール、シート型バッテリーと一体化することにより、従来のシリコンエレクトロニクスに対して、より薄く柔らかいパッチ型のウェアラブル汗センサの実現を目指して開発を進めます。
ウェアラブル汗センサの構成と試作したフィルム型イオンセンサ/増幅回路
関連資料
研究技術報告書
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