エコタイヤに求められるものは?
「燃費が良くなる」「環境に優しい」と注目されている低燃費タイヤ。近年、CO2排出削減の流れによりさらなる注目を浴びていますが、エコタイヤ(低燃費タイヤ)と分類されるには、ある基準を満たしていることが条件となります。それが「転がり抵抗性能」と「ウェットグリップ性能」です。
- 転がり抵抗性能
- タイヤが転がる時に進行方向と逆向きに生じる抵抗のことで、転がり抵抗が大きいと燃費が悪くなるといわれています。
- ウェットグリップ性能
- グリップ性とは、どんな路面状態でも素早く「止まる/曲がる」ができる性能のことで、安全性や乗り心地にもつながります。
ウェットグリップ性能は、濡れた路面でのグリップ性を指し、グリップ性の中でも特に重要とされています。
低燃費とグリップ性の両立を追求
タイヤは走行時の転がり抵抗(進行方向と逆向きに生じる抵抗力)を減らすと低燃費性が高まり、路面との摩擦を増やすとグリップ性が高まるため、これらの両立が理想です。しかし路面摩擦の増加は転がり抵抗も増加し燃費性を損なうという2つの相反関係を両立させることが難しく、エコタイヤの大きな課題でした。
「石油樹脂」に注目
タイヤのトレッド部(路面と接触する部分)には、ゴム成分(スチレンブタジエンゴム〔SBR〕など)の他に、シリカ、カーボンブラック、硫黄など20種類以上の素材が用いられていますが、中でも石油樹脂はグリップ性を向上させる唯一の添加剤として、エコタイヤには不可欠な存在でした。
石油樹脂は、ナフサの熱分解によって副生するC5留分(脂肪族)やC9留分(芳香族)を原料に製造される低分子量の樹脂で、タイヤに使われるC5/C9系石油樹脂は、粘着性の付与やゴム改質に適しているのが特長です。1976年からC9系石油樹脂を生産している東ソーには、これまでに知見やノウハウが多く培われており、それらを生かすことでエコタイヤの「低燃費とグリップ性の両立」という課題解決につながると考え、新たなエコタイヤ用石油樹脂の開発に着手しました。
相溶性の高い石油樹脂の構造を模索
低燃費性とウェットグリップ性の指標として「粘弾性測定」というものがあり、一般的に双方は相反関係にあるため、ゴム配合物の粘弾性挙動を制御することが重要です。そこで我々は、石油樹脂のゴムに対するナノレベルでの相溶※性に注目し、ゴム分子中に均一分散するよう、石油樹脂の構造(モノマーの種類、分子量)を設計しました。
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相溶:分子(特に高分子)の構造が似たもの同士、溶け合う現象。
2つの性能の両立を実現
相溶性の評価には、大型放射光施設(Spring-8、あいちシンクロトロン光センター)のX線を利用しました。この新たな石油樹脂は、従来品に比べ低燃費性とウェットグリップ性ともに10%以上もアップ。こうしてタイヤの「低燃費性」と「ウェットグリップ性」の両立を実現することに成功し、CO2排出量削減への貢献につながりました。
電気自動車への応用へ挑戦
当開発品は、エコタイヤの他に、スタッドレスタイヤや欧州を中心に需要拡大中のオールシーズンタイヤにおいても、低燃費性とグリップ性の向上が期待できます。
また今後、電気自動車の普及に伴い、低燃費性(低電費性)とグリップ性のニーズは一層高まり、タイヤにおける石油樹脂の重要性はますます高まると予想されます。また、ハイブリッド車、電気自動車においてはバッテリー搭載による車両重量の増加に伴い、耐久性(特に耐摩耗性)の要求が高まっているため、低電費性、グリップ性、耐摩耗性をバランスよく高める新たな石油樹脂の開発にも取り組んでいきます。
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