本記事は東ソーグループ「株式会社東ソー分析センター」からの寄稿となります。
目には見えない微小な世界の研究開発において、顕微鏡はとても重要な役割を担っています。東ソーグループのような総合化学メーカーでもさまざまな研究で使用しており、特に材料開発においては性能向上を日々求められるため、原子レベルでの解析が欠かせません。
原子レベルの解析に使用しているのがTEM*と呼ばれる「透過電子顕微鏡」です。電子を使って非常に小さなものを観察できる顕微鏡で、小学校などで使う光学顕微鏡が1,000倍程度まで拡大(1~10μmの大きさまで観察)できるのに対し、TEMはなんと1,000万倍以上! 原子の配列まで観察が可能です。東ソー分析センターも、これまでTEMを使用してガラスやセラミックス、プラスチックや電池など、さまざまな材料を観察し、性能向上における研究を行ってきました。
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Transmission Electron Microscope の略
高温加熱下でのリアルタイム観察に挑戦
一般的な光学顕微鏡による観察では、試料を切断してプレパラート(観察用試料)を作製しますが、TEM観察も同様に、試料を小さく薄く加工する必要があります。ただ、これでは試料を破壊することになるため、環境変化中の様子や動きのある観察は困難とされていました。
しかし近年では、それらを可能にする技術(in-situ観察*)が開発され、加熱による材料の構造変化(加熱TEM)、電池の充電放電による変化、化学反応中の構造変化など、さまざまな変化においてリアルタイム観察が可能となったのです。そこで東ソー分析センターは加熱TEM技術を取り入れ、1,000℃を超える高温下での構造変化を観察できていなかった材料(ガラスやセラミックスなど)に応用することにしました。
ガラスやセラミックスは、高温状態で長時間保持すると構造や性能が変化します。今回、観察対象であるガラスは、構造変化する温度が1,000~1,200℃、またはそれ以上と予想されることから、加熱TEM観察において、1,200℃を超える高温加熱が可能なシステムを用意すること、そして加工した試料が高温加熱中に壊れないことが必要と考えました。
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電子顕微鏡内で試料の環境変化に対する応答を連続的に観察できる技術。環境変化とは、加熱や冷却、引張など、さまざま。「その場観察」「オペランド観察」などとも呼ばれる。
加熱システムの耐熱性と、試料の固定部材に課題
- 1,200℃超の高温加熱を実現にするために…
- 電子顕微鏡や加熱システムのメーカーへ問い合わせたところ、一般的な加熱TEMシステムの対応温度は1,200℃までと判明。より高温加熱が可能なシステムを探さなければなりませんでした。
- 加工した試料が高温で壊れないために…
- 加熱TEM観察では、装置内に試料を固定させる接着剤が必要な半面、その接着剤が観察の邪魔になってはいけません。そこでCVD法(薄膜形成法の一つ)を応用し、金属を接着剤として使用しましたが、接着剤がはみ出して正常な観察が行えず…。さらに1,000℃を超えた時点で温度に耐えきれず試料の固定部分が折れ、試料がなくなってしまう事態に陥りました。
東ソー分析センターの取り組み
加熱システムについては、大学や研究機関などへも問い合わせたをしたところ、国立研究開発法人 物質・材料研究機構から、現時点では最高温度の1,300℃まで加熱が可能なシステムを借りることができました。また、固定部材の課題は、観察前にはみ出した接着剤のクリーニング工程を加え、かつ接着剤を変更するといった取り組みを重ねることで高耐熱を実現。ついに1,300℃という高温下で、1時間の加熱TEM観察に成功しました。
高性能な材料開発に貢献
この加熱TEM技術によって、ガラス中の色の元となる金属コロイド*の変化を高温下で観察(挙動解析)可能とし、さらに工程途中や使用中の変化の解析も実現しました。これらを応用すれば処理温度が1,000~1,500℃と高いセラミックス材料も、高温処理中の変化をリアルタイムで観察することが可能となるため、より硬い・より耐久性のある材料開発につながると考えています。今後もこの技術を活用・発展させ、新たな材料開発によって技術イノベーション促進に貢献していきます。
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ナノサイズの金属粒子が物質中に分散していること
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